新型コロナウイルス 第5回抗体保有率検査(住民調査)速報結果。前回比9~12倍と大幅に上昇。だが東京や大阪でも30%未満と、諸外国に比べれば遥かに低い。「脱マスク」で犠牲者が増える可能性も。

2月8日に開かれた第116回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードにおいて、「第5回抗体保有率検査(住民調査)速報結果」が示されました。宮城県、東京都、大阪府、愛知県、福岡県の住民から無作為抽出により選ばれた人に封筒を送り、任意で参加してもらう形式で行われたとのこと。調査時期は昨年11月~12月。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001055259.pdf

  • ワクチン接種・感染のどちらでも陽性になる抗S抗体の陽性率
    • 宮城県 98.3%, 東京都 98.4%, 大阪府 97.5%, 愛知県 97.2%, 福岡県 97.7%
  • 感染した場合にのみ陽性になる抗N抗体の陽性率
    • 宮城県 17.6%, 東京都 28.2%, 大阪府 28.8%, 愛知県 26.5%, 福岡県 27.1%

※ 感染しても全員が抗N抗体が陽性になるわけではない。ワクチン接種済みの人・症状が軽かった人ほど、抗N抗体が陽性にならない割合が高い。

東京や大阪で30%弱との結果ですが、昨年11月に行われた献血者の血液を調査した結果では東京が31.8%、大阪が40.7%だったので、それよりも低い結果です。これは、献血者のほうが若年になりがちなこと(献血できるのは16~69歳)、住民調査では時間に余裕がある高齢者(ワクチン接種率が高い)のほうが参加しやすいこと、自由意志による参加なので感染に気を付けている人のほうが集まりがちであることなどが影響してそうです。

ということで、実際の抗N抗体保有率はもっと高いでしょう。感染者全員が「抗N抗体陽性」になるわけではないので、既感染率はさらに高いはずです。とはいえ、イギリスでは8割程度、アメリカでは9割近くが抗N抗体陽性なので、日本では新型コロナの感染を経験した人の割合が欧米諸国よりずっと低いことは、この調査からも明らかです。これは、ワクチン接種率の高さ、マスク着用率の高さ、その他、3密の回避などの感染対策が広く行われてきたことが要因でしょう。その結果、日本はイギリスやアメリカに比べ、「コロナ死」と確認された人の割合が5分の1以下で済んでいます。日本の高齢化率の高さを考えれば、日本における新型コロナ対策は相当な効果を出していると言えます。

100万人あたりの新型コロナによる死者数。アメリカ・イギリスが3200人を超えているのに対し、日本は約567人(2023年2月9日時点)。なおこれは「新型コロナによる死だと確認された数」だけなので、実態はさらに多い。

しかし、日本においてもコロナ対策は緩和の方向にあります。政府は3月13日より「マスク着用は屋内外問わず個人判断」という指針を出しましたし、5月には「5類相当」への移行と全数把握の終了が決定しており、人々の感染対策への意識は薄れていくでしょう。他国とのバランス、政治・経済への影響を考慮した上での決定なのでしょうが、感染者の増加、ひいては重症者、死者の増加は避けられそうにありません。

これまでは、多くの人がマスクをしていたことから、感染者と接触しても新型コロナウイルスを吸い込む量は欧米諸国に比べて少なく済んでおり、それが感染者の少なさ、そして感染・発症しても重症化・死亡する人の少なさにつながっていたと考えられます。この先マスクを着用する人が減れば、どうしても新型コロナウイルスを吸い込む量は増えてしまうでしょう。そうなれば、これまで感染していなかった人でも、感染・発症する人は増えるはずです。そして、最もリスクが高いのは、ワクチン未接種で、かつ今まで感染していない人でしょう。特に中高年以上では、今まで以上に重症化するワクチン未接種者は増えると推測されます。

さらに心配なのは、ワクチン接種率の低い子供たちです。12歳未満の子供のワクチン接種率は2割程度と低迷しつづけています。重症化・死亡する割合は低いものの、健康な乳幼児や子供が新型コロナに感染し、急変して死に至る例は急増しています。屋内でマスク着用などの習慣が無くなっていけば、やはり犠牲者は増えるでしょう。子供のうちにコロナ後遺症になれば、その後の人生に多大な影響があるという問題も無視できません。

時事ドットコム

子供が感染対策の要否を自分で判断することは難しく、親や教師など周囲の大人の判断に従わざるを得ません。大人の判断により、子供が命を落としたり、後遺症に苦しんだりするのは非常に残酷であると思います。なので、学校の「脱マスク」などについては、影響を見極めながら慎重に進めるべきだと思いますが…どうも、そうはいかないようです。岸田総理は「卒業式にはマスクを着用しないことが基本」と発言していますし、学校での「脱マスク」が一気に進むことも考えられます。

【速報】岸田総理 卒業式マスク「国歌斉唱や合唱時を除きマスクを着用しないことを基本」 | TBS NEWS DIG
岸田総理は、卒業式では「換気など感染対策を講じたうえで、国歌斉唱や合唱時を除き、マスクを着用しないことを基本としたい」と明言しました。埼玉県の小学校を視察後、記者団の取材に答えました。

この影響が、どの程度出るかは「やってみるまで分からない」部分はありますが…仮に子供の重症者・死者が大きく増えたとしても、関連を明確に示すことは難しく、そのまま責任の所在も曖昧にされていくのでしょう。多くの子供が苦しむことにならないことを願うしかなさそうです。

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