前回、私は「ニセ科学」「陰謀論」を心の底から憎んでいる、という話を書きました。
私と同様に、ニセ科学・陰謀論を信じる家族に悩まされてきた人は少なくないでしょう。Twitterや他のSNSを検索すれば、私の家族のように「ニセ科学をベースとしたインチキ商品」を買い続ける家族や、あらゆる話題を陰謀論に結び付けて語り始める家族に悩まされる人の投稿が、いくらでも見つかります。ネットに吐き出す人は一部でしょうから、誰にも言えず苦しんでいる人はさらに多いでしょう。
しかし、ニセ科学・陰謀論を広める人に比べれば、それらを厳しく批判する人は少ないです。とくに、具体的な人物名・商品名をあげて批判している人は稀です。その理由は、主に以下の3点だと思われます。
- ニセ科学・陰謀論は金儲けになるが、批判で金儲けは難しい。つまり、メリットが無い(薄い)。
- ニセ科学・陰謀論は「妄想」ベースなので簡単に発信できる。一方、それを批判するには注意深く調査・検討する必要があり、時間がかかる。
- ニセ科学・陰謀論を唱える人物・団体を批判すると、訴えられるリスクがある。さらに、「狂信者」に加害されるリスクがある。
陰謀論やニセ科学が「金になる」ことは、新型コロナウイルスが流行して広く知られるようになりました。2021年の時点で、新型コロナワクチンに反対してデマを流している中心的な12人だけでも、少なくとも約40億円もの収益を上げているとの調査結果も報道されています。
日本においても、異常な理屈で新型コロナ対策や新型コロナワクチン接種に反対し、本を出したり、高額セミナーを開いている人物は何人もいます。
ネットやテレビで誤情報を流して人気を得て、新型コロナ対策・新型コロナワクチン接種に反対する内容の本を出せば、何万部も売れます。
何冊も出せば数百万、数千万の印税収入が得られる上に、有料セミナーを開いて人を集めれば、さらに稼ぐことができます。
陰謀論を唱えて寄付金を募る、という手法で儲ける人物もいます。
「新型コロナワクチンは人口削減が目的だ」などという荒唐無稽な陰謀論を流し、ワクチン接種会場で業務を妨害するなどの活動を行ってきた「神真都Q会」の代表・村井大介(通称「甲兄」)の口座には、約7200万円の寄付金が集まっています。
コロナ以前から、ニセ科学と陰謀論を組み合わせたインチキ商品やサービスで儲けている人間はいくらでもいます。
その多くが、「マイナスイオン発生装置」「電磁波から身を守るグッズ」「あらゆる病気を治す波動治療」などインチキ健康術・ニセ医療に関連しており、これらが普及しない原因を「病院や製薬会社の陰謀のせい」だと主張しています。
私の家族も、こうした「ニセ医療」からニセ科学的なものに深く傾倒するようになり、陰謀論まで信じるようになりました。
こうしたニセ科学・陰謀論、およびそれらをベースとしたニセ医療は、人の命を奪います。その代表が「反ワクチン」です。
日本においては、反ワクチン派が流したHPVワクチンの副反応にまつわるデマのせいで、将来、1万を超える女性の命が子宮頸がんにより失われると推定されています。加えて、さらに多くの女性が子供を産めなくなるでしょう。
また、WHOは昨年「反ワクチン活動が世界中で人を殺している」という動画まで公開して注意喚起しています。
問題は反ワクチンだけではありません。「ニセ医療」を信じた人の多くは、標準医療に疑念を抱くようになるので、治療が遅れて悪化、場合によっては命を落とすことがあります。
ニセ医学を根拠とした、何の効果もない高額な「詐欺がん治療」で、がん患者から搾取するような詐欺クリニックもあります。
「難病を治す〇〇〇絵」「末期がんが消えた波動水を作る装置」などというインチキ商品を売る業者もいます。
いずれも、人の命と健康を犠牲にした金儲けです。
こうしたニセ科学・陰謀論を利用した詐欺的手法で金儲けをする人物や組織は、全力で活動します。
ニセ科学商売が軌道に乗れば金が入ってくるので、必要な物品を揃えることも、ネット上にコンテンツを増やす作業を外注することも、積極的に行うことができます。
一方、こうしたニセ科学・陰謀論の危険性を訴えても、その活動を収益に結び付けることは難しいです。
もちろん、何らかの媒体に記事を書いたり、ニセ科学・陰謀論を批判する本を出したりするなどの形で利益を得るといったことも可能でしょうが、ほとんどの場合で割に合わないのが現状です。
なぜならニセ科学・陰謀論は「妄想」がベースなので、作り上げるのに詳細な検証などいりません。
しかし、それを批判するには、どの点が間違っているのかを注意深く調べる必要があり、手間がかかります。
商売として成り立ち、うまくいけば大きく儲けることができるニセ科学的主張に対し、利益を出すことが難しい上に作業コストがかかる批判は、どうしても少なくなってしまいます。
ニセ科学や陰謀論は、「信者」が勝手に「布教」してくれる、という点も大きいです。
ニセ科学や陰謀論を流す中心的な人物・団体や、彼らが売る商品やサービスを厳しく批判する言説を広めれば、彼らの「デマ」に騙される人をいくらかは減らすことができると思われます。
しかし、それには大きなリスクを伴うという問題もあります。
彼らは、「政府の陰謀」「製薬会社の陰謀」「医師の陰謀」「闇の政府(DS)の陰謀」などにより、人々が「搾取されている」「命を奪われている」と主張します。実際は逆で、彼らこそが信者から搾取し、命を奪っているのですが。
ですが、このような主張も「言論の自由」の範疇であり、また対象が特定の人物や団体ではなく、「政府」や、特定の個人ではない「医師」であることから、名誉棄損で訴えられることもありません。
一方、逆にニセ科学や陰謀論を流している人物を名指しで批判すれば、批判した側が名誉棄損で訴えられるリスクが生まれます。たとえば、「全てのワクチンは不要」「輸血は危険」などといった主張は明らかに間違っており、信じた人やその家族の命を奪いかねない言説ですが、これを主張している医師を名指しして、「〇〇〇医師は、人の命を奪う危険なデマを流している」などと書けば、訴訟リスクを抱えることになってしまいます。
実際に裁判になれば、公共性・公益目的・真実性を満たしており名誉棄損には当たらないと判断される可能性が高いとは思いますが、訴えられるだけでも大変な負担を強いられますし、金にもならないのにリスクを負い、時間をかけて批判する人が少ないのは当然でしょう。ニセ医療で大儲けしている医師なら、スラップ訴訟を仕掛けるハードルも低いでしょうし。
加えて、陰謀論を伴うニセ科学・ニセ医療は「カルト化」しているので、狂信者により加害行為を受けるリスクもあります。医師の先生が実名で反ワクチンやニセ医療批判をしたら、勤務先に脅迫の電話がかかってきた、などという話も目にしますし、狂信者は何をするか分かりません。
ということで、ニセ科学や陰謀論が増殖・拡散するスピードに比べて、批判の声は広がりにくいという構造があります。
ならば、なんらかの法的な規制を期待したいですが、「表現の自由」との兼ね合いから、なかなか難しいでしょう。「反ワクチン」や「輸血有害説」のような、明らかに人の命を奪うデマを流すような悪質な行為だけでも法で規制するべきだとは思うのですが。
ニセ科学に対する強い批判は逆効果だ、という意見もあるようです。しかし、実際に家族がニセ科学・陰謀論に傾倒していく様を目の当たりにした私としては、ニセ科学・ニセ医療の具体名、広めている人物名を挙げ、分かりやすく注意喚起を行うことは、騙される人を減らす効果があると思っています。
こうしたニセ科学、とくに電磁波や化学物質、薬といった「科学的なもの」に対する不審を煽る「自然派カルト」的なデマは、加齢などにより体調が優れないとか、これから子供を産んで育てるにあたり不安があるとかいった、心の弱った人が信じてしまいがちです。
そうした人がニセ科学・陰謀論を語る人物の名前や商品名でネット検索した時、厳しく批判されているのを見れば、信じる前に不安になり、引き返すきっかけになると思っています。
そういう思いから、私はリスクを冒してでも、具体名を挙げてニセ科学・ニセ医療・陰謀論を批判することを続けるつもりです。私の家族のように「トンデモ」を信じやすい、物事を合理的に考えないタイプの人にも伝わるよう、中学生にでも理解できるような簡単な言葉で、短く伝えることも重要だと考えています。
どこまで効果があるのかは分かりませんが、ニセ科学に人生を狂わされた者としては、命が続く限りやりつづけるしかありません。もし、それでニセ科学・陰謀論による犠牲者を減らすことができるなら、何を失っても構わないと思います。
ニセ科学やニセ医療で儲けている輩が、私の個人情報を躍起になって暴こうとしてくるぐらい効果を上げられたらいいな、と思っています。
コメント